Jev将棋実験から見る「局所判断」と「読み」の境界
2026年9月18日に公開された栗林健太郎氏の実験は、Jevを将棋AIとして使った事例の中でも、対局条件と失敗の仕方が比較的よく記録されている。
実験の構成
対局相手はFairy-Stockfish。Jevは常に先手で、探索エンジンは使わず、Jev自身に指し手を選ばせている。
ただし、Jevに盤面だけを丸投げしているわけではない。コード側で合法手を列挙し、各候補について次のような事実を計算して説明へ入れている。
- 相手の駒を取るか
- 成るか
- 王手か
- 詰みか
- 動かした駒がタダで取られるか
- 別の駒が浮くか
- 相手に1手詰みが生じるか
つまりJevに任されているのは、合法性や機械的 tactical fact の計算ではなく、それらを見た上でどの手を選ぶかである。
Fairy-Stockfishとの結果
Skill Level -20 / -10 / 0 / 10 / 20 の5段階で対局し、Jevは -20 と -10 には最後まで詰ませて勝った。一方、0 / 10 / 20 には敗れた。
Skill Levelは人間の級・段位と直接対応しないため、「Jevは何級相当」とは言えない。
負けた対局では、玉を囲わないまま攻められ、中段や端へ逃げ、最後に詰まされる形が目立った。候補説明には駒損などの局所事実は入っているが、玉の安全性は十分表現されていなかった。
これは、stateに何を書くかがJevの“知能”の一部になることを示している。
Jev自身に先を読ませる
作者はさらに、
- 上位6手を選ぶ
- 各手に対する相手の最善応手をJevに選ばせる
- その局面をJevに評価させる
という多段方式と、3手先まで読み進めてから評価する方式を試した。
しかし中以上には勝てなかった。
予測した相手の応手と実戦の一致は、
- 応手読み方式: 68手中10手
- 3手読み方式: 70手中12手
だった。
ここが重要である。Jevに複数回問い合わせても、相手手の予測自体が弱ければ、その先の局面評価は現実に現れない枝を評価しているだけになる。
ゲームAIとしての読み方
この実験から少なくとも次の区別が必要になる。
- 合法手判定: コード向き
- 直近の損得や危険: Jevへ説明すれば扱える場合がある
- 局面全体の長期評価: 難しくなる
- 相手の最善応手を連続予測: さらに難しい
- minimax探索: Jevを再帰呼び出しするだけでは代替しにくい
したがって将棋でJevを使うなら、Jev自身に“読む”ことを期待するより、Jevの確率をmove orderingやpolicy priorとして利用し、通常の探索器と組み合わせる方が構造として自然である。
関連: Jevの盤面ゲーム実験:将棋・チェス・五目並べ / JevをゲームAIで多段利用する設計 / ゲームAIでJevの確率をどう使うか